年齢を重ねた老犬は様々な身体機能が低下して、若い頃よりも病気にかかりやすい傾向にあります。何か異変に気づいたら「シニア犬だから」と決めつけず、病気も疑って考えましょう。病気の早期発見・早期治療はとても大切です。あれっと思ったらすぐに動物病院を受診することをおすすめします。この記事では愛犬の気になる症状から、関連する病気についての情報をみていきます。
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【全シニア期】:シニア期に入り健康状態が気になる犬と飼い主向けの記事です。
食欲と嘔吐に関する病気
食欲がない
肥大型心筋症
心臓の主に左心室壁の筋肉が厚く肥大して血液の流れが悪くなり、様々な障害を起こす病気です。他に、元気がない、咳をするなどの症状がみられます。呼吸困難を起こして死に至る場合もあります。完治は難しく症状を緩和させるための薬などを用いて治療を行っていきます。
その他に考えられる病気
食欲がなくなるという症状は消化器系や呼吸器・循環器系の疾患、細菌・ウイルス感染、その他ストレス等、様々な病気にもみられる共通の症状になりますので、続くようなら早めに病院で診てもらうようにしましょう。

食欲旺盛
甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで起こる内分泌系の病気です。内分泌系の病気はゆっくり進行するため、年をとり食欲があって元気だと思っていても病気が進行している場合があります。そのほかの症状には体温が高くなる、心拍数が多くなるなどです。
嘔吐を繰り返す
膵炎
膵臓に炎症がおこる病気。はっきりとした原因はわかっていませんが、中年齢以降の犬に多いといわれています。急性と慢性があり、嘔吐を繰り返すのは急性膵炎の症状の一つです。他に下痢や発熱、腹痛、食欲低下などが主な症状になります。重度の場合は呼吸困難を起こし命にかかわります。制吐剤や鎮痛剤、抗生剤などを用いて症状に合わせた治療を行います。
その他に考えられる病気
苦しそうに吐く場合:急性中毒/異物誤飲/尿毒症/急性腹膜炎
食後すぐに吐く場合:甲状腺腫瘍/食道炎/巨大食道症/食道狭窄
食後しばらくして吐く場合:胃炎/レプトスピラ症/肝臓疾患/糖尿病
吐き気があるのに吐けない場合:胃捻転/十二指腸潰瘍
※レプトスピラ症:細菌感染症
嘔吐は1日2回以上、あるいは1日1回でも、それが何日か続いているようなら動物病院を受診して原因を調べてもらいましょう。
水をよく飲む
糖尿病
膵臓から分泌されるインスリンというホルモンは血液中の糖分を吸収する働きをしています。肥満や遺伝的要因などによりインスリンの分泌異常がおこり血糖値が高くなる病気です。そのほかの症状には食べているのに痩せる、吐き気、脱水などがあります。進行すると白内障や腎炎を引き起こし命にもかかわります。完治する病気ではないので食事療法やインスリン投与などを一生続けていきます。
その他に考えられる病気
慢性腎不全/子宮蓄膿症/尿崩症/クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)/免疫介在性溶血性貧血
尿と便に関する病気
おしっこの量が多い
腎不全
加齢や、循環器など他の病気の影響を受けて腎臓の働きが悪くなることです。急性と慢性があり老犬に多いのは慢性腎不全です。尿量が増える以外に進行するにつれて、食欲低下、嘔吐、下痢などの症状がみられます。
その他に考えられる病気
糖尿病/子宮蓄膿症/尿崩症/クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)/免疫介在性溶血性貧血
おしっこの量が少ない
前立腺肥大
加齢とともに男性ホルモンのバランスが崩れて前立腺(精子を分泌する器官)が肥大する病気で未去勢のオスに起こります。肥大が進行すると尿道が圧迫され排尿障害を引き起こします。そのままにしておくと血尿や膀胱炎、尿毒症などを起こし命にも関わってきます。さらに腸が圧迫されると排便障害も生じます。軽度であれば薬や食事療法で治療しますが重度の場合は前立腺を摘出する手術が必要になります。
その他に考えられる病気
腎不全/巨大結腸症/尿道結石/前立腺腫瘍
便秘
巨大結腸症
慢性的な便秘が続き、たまったうんちによって結腸が巨大化してしまう病気です。原因は長期の便秘や腸の収縮運動の低下、骨盤骨折や他の病気によって腸が狭くなっているなど。便秘が続くと元気がなくなり食欲減衰、嘔吐などの症状も出てきます。治療には緩下剤の投与などでたまったうんちを取り除きます。原因となっている病気がある場合はその治療も行っていきます。
その他に考えられる病気
異物誤飲/前立腺肥大/前立腺腫瘍/運動不足
動作や呼吸に関する病気
元気がない
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が少なくなって様々な症状を引き起こす病気です。原因には免疫疾患や甲状腺腫瘍、他のホルモンの分泌異常などがあります。そのほかの症状としては左右対称に脱毛、季節に関係なく寒がるなど。甲状腺ホルモンを投与して治療します。

呼吸が荒い
心筋症
心臓の筋肉が変質することで心臓機能が低下する病気です。肥大心筋症以外にも拡張型や拘束型などがあり原因は不明です。初期は症状がほとんど見られませんが進行すると咳が出るようになり完治は難しく症状を緩和する治療が行われます。
僧帽弁閉鎖不全症
心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁が老化などで変形し障害を起こす病気です。老犬の心臓病の中で最も多く、進行すると呼吸困難や苦しそうな咳をするようになり、悪化すると心不全など突然死の可能性もあります。症状に合わせて食事療法、運動制限、薬物治療を行います。
歩き方がおかしい
股関節形成不全
遺伝性の病気で、股関節の発育不全や変形によって痛みを生じ歩き方に影響を及ぼします。高齢になってから発症する場合もあり、横座りするなどの様子が見られます。鎮痛剤や消炎剤で痛みをおさえ、重度の場合は手術することもあります。
ヘルニア
ヘルニアにはいろいろありますが、歩き方がおかしくなるのは椎間板が変性し脊髄神経を圧迫する椎間板ヘルニアです。激しい運動や骨の老化などによって発症します。重症になると前足や後ろ足が麻痺して排尿障害を起こしたり下半身不随になったりするので、症状に合わせた早めの治療が大切です。
咳をする
肺水腫
肺に水がたまってしまう病気です。心臓病や肺炎など、他の病気が原因で起こる場合がほとんどです。重度になるとチアノーゼ(血液中の酸素不足で唇や舌が青紫になる状態)やむくみなどの症状がみられます。
見かけの症状からわかる病気
目の病気
白内障
水晶体が白く濁ってしまう病気です。老犬の場合、多くは加齢によるもので目の色が白っぽくなり、物にぶつかって歩くようになったりします。進行すると失明に至ることもあります。抗白内障薬で進行を遅らせたり手術する場合もあります。
緑内障
遺伝や他の目の病気などが原因となって眼圧が高まり視力に障害を起こす病気です。目の色が赤や緑など、いつもと違う色に見えたり眼球が肥大するのが主な症状です。放置すると失明するため、眼圧を下げる点眼薬を使うなど早めの治療が大切です。
歯の病気
歯周病
歯垢の細菌により歯周組織に炎症を起こす病気です。歯茎が腫れて出血したり口臭が強くなるなどの症状があります。進行すると歯肉が後退して歯が抜けたり増殖した細菌が心臓や肝臓に影響を与えさらに他の病気を引き起こすおそれがあります。治療は歯垢を除去し炎症が強い場合は抗生物質を投与したりします。

脱毛
副腎皮質機能亢進症
クッシング症候群ともいわれ副腎皮質ホルモンが過剰に分泌される病気です。脳下垂体や副腎にできた腫瘍などが原因となります。左右対称に脱毛がみられる、多飲多尿などの症状があります。治療にはホルモンの過剰分泌をおさえる薬を投与します。腫瘍が原因の場合は手術で取り除いたりします。
おなかがふくれている
乳がん・乳腺腫瘍
避妊していないメスでおっぱいの部分にしこりがみられたら乳腺腫瘍の可能性があります。良性と悪性(乳がん)があり、犬の場合は50%が悪性といわれています。悪性の場合は肺に転移する恐れがあり注意が必要です。早期発見、早期治療が重要です。
子宮蓄膿症
子宮内部に膿がたまる病気で、原因としては細菌感染や卵巣ホルモンの異常が考えられます。元気がなくなる、食欲低下など他の症状もみられ、放置すると命にかかわりますので子宮・卵巣の摘出手術を行います。
性格や行動の変化がみられる病気
認知機能不全症候群
いわゆる『認知症』です。老化による脳の機能低下により引き起こされるといわれています。認知症のサインとしては以下の変化があげられます。
- ふらふら歩く
- ぐるぐる回る
- 夜鳴きする
- 甘えん坊になる
- 攻撃的になる
- トイレを失敗する
ただし、これらのサインは脳に腫瘍などの疾患がある場合にもみられるのできちんと動物病院で判別してもらいましょう。
介護士ポイント
認知症による問題行動の根本には、今まで出来ていたことが出来なくなったということへの不安があります。出来るだけ不安を感じさせないように見守ってあげることが大切です。
すみやかに病院を受診するべき症状
愛犬は様々な病気のサインで不調を訴えてくれますが、このサインに気づくためには日ごろからよく観察して愛犬の健康な状態を把握しておくことが重要です。
また病気のサインの中でも、次のような兆候がみられた場合は出来るだけ早く動物病院を受診してください。
- 食欲がない日が2日以上続く
- 嘔吐を繰り返す
- 呼吸が荒い
- 目が赤い・目を気にするしぐさを見せる
- 痙攣をおこした・意識がない
- おしっこが丸1日出ない
一日でも長く元気に過ごしてもらうために、病気の早期発見・早期治療が重要になります。